先日のアカデミー賞の大フィナーレ「Best Picture」の発表時、最初に発表された作品が「まちがいでした」と訂正された珍事が起こりました。 名誉ある「Best Picture」のプレゼンターは「俺たちに明日はない(Bonnie and Clyde)」で主演したウォーレン・ビーティとフェイ・ダナウェイ。この映画が公開されてからちょうど50年記念だったんですね。
華のある二人の登場に会場は盛り上がります
1967年公開「俺たちに明日はない」のお二人
Bonnie役のダナウェイさんのファッションの影響で、ミニ・スカート全盛時に長めのスカートとベレー帽が流行ったそうです。 さて、授賞式ですが、9つのノミネート作品の短いフィルムが紹介された後に、ビーティさんが作品を読み上げようと「The Academy Award..」まで言いますが、ためらって、またカードに目を落とします。隣のダナウェイさんがベーティさんに何かささやくと、彼は彼女に大仕事を譲る感じでカードを見せ、ダナウェイさんがにこやかに「La La Land!」とアナウンスし、場内が沸きます。オーケストラは「La La Land」のテーマ曲を演奏し、Team La La Land がステージに上がり、3名のプロデューサーが受賞のスピーチをします。二人目のプロデューサーのスピーチの途中で、ヘッドセットを付けたスタッフ(通常、絶対テレビには映ってはいけないステージ・マネージャー)が登場して、封筒を確認してなんだか不穏な雰囲気になってきました。 こちらのYoutubeをご覧ください。2分過ぎたあたりからバタバタしてきます。
Moonlight or La La Land?
バタバタでしたけど、「La La Land」のプロデューサー、ジョーダン・ホロビッツ氏が「間違いでした。受賞したのはMoonlightです。ジョークではありません」とアナウンスし、「自分からトロフィーを渡したい」と場を仕切ります。ここで、これまでいろいろな映画賞で注目されライバル同士だった2チームに”強い絆”が生まれた雰囲気で、ステージでハグしあう俳優、監督、スタッフの姿が見られます。会場からも温かい拍手が送られ、Jimmy Kimmelは「悪いのは僕です。何かしでかすんじゃないかと思ってたんです。アカデミー賞には二度と戻ってこないと誓います」と幕を閉じました。こんな前代未聞のトラブルにも即ジョークで返すKimmel。MCの鏡です。 Youtubeで話してるように、ビーティさんたちは1つ前に発表された「Best Actress」の封筒を渡されたんですね。カードには「Emma Stone, La La Land」と書かれていて、La La Landが本命と言われていたし、別のカテゴリーの封筒を渡されたなんて、権威あるアカデミー賞でそんな間違いが起こるなんて露とも疑いませんから、「La La Land」と発表してしまったんですね。 最初テレビで見た時は、たいへん失礼ながら、ご高齢のお二人がミスをしてしまったのかと思ってしまいましたよ。大御所を一瞬でも疑ってしまって、ほんとにごめんなさい。
絶対漏れてはいけないトップ・シークレット
翌日の日本の番組で、中堅芸人の方が「ADさんもすごく疲れてると思うけど、封筒はちゃんと確認して渡してもらわないとね」と発言していて、そういう認識なんだ、と知りました。 アカデミー賞は「映画芸術科学アカデミー(Academy of Motion Picture Arts and Sciences、AMPAS)」によって運営されていて、現在6000人以上いる会員の投票によって受賞作・人が選ばれます。そしてその集計は外部に委託していますが、外部とはいえ、ぜったい漏れてはいけないトップ・シークレットですから、企業の秘密を守る監査法人に委託してきました。89年続いてきたアカデミー賞で、83年間PricewaterhouseCoopers (PwC)が請け負ってきました。ちなみに、PwCは日本法人もあります。 会社内でもこの仕事に関わるのは二人だけで、その二人が結果の書かれた封筒を鍵つきのブリーフ・ケースに入れて会場に持ち込みます。結果を知っているのは全世界でこの二人だけ。とても徹底した管理体制なんです。ちなみに、彼らは結果を紙に書き写すことも禁止されているので、24部門の結果をすべて頭に記憶しなくていけないんですね。
************************************************************************* 最初テレビで見た時は、「La La Land」プロデューサーのホロヴィッツ氏の機転が利いた対応が混乱を救った、というのが第一印象でした。でもその後このYoutubeを何度も見ると、彼はウォーレン・ビーティが再アナウンスするために渡された封筒を奪い取ってるじゃないですか! ビーティさんが悪ふざけしたのかと勘違いしたのか、ビーティさんとは目を合わせず、怒ったような顔をしていますね。
Viola Davisは3度目のノミネートで初の受賞。「人生の意味を考え、祝福できる仕事である俳優になれたことを神に感謝します」とスピーチする中、涙ぐむ同朋の姿もありました。「Viola Davisは感動的なスピーチでショーをさらっていった」とメディアも大絶賛でした。 途中、キャンディが天井から降ってきたり、ロサンゼルスの観光ツアーバスStarLine Busのお客さんが何も知らず偽ガイドに案内されて生放送中の会場へ連れて来られたり(こんな嬉しい「ドッキリ!」ならいいですね)、「Back to the Future」の未来車DeLoreanとMichael J. Foxが登場したりと、サプライズもいろいろありました。
話題が遡りますが、2月5日はSuper Bowl Sunday、プロのアメリカン・フットボール・リーグ(NFL)の優勝決定戦でした。アメリカではオリンピック中継よりも注目度も視聴率も断然高いスポーツ・エンターテイメントです。 今年の決戦はSuper Bowl常連のNew England Patriots VS Atlanta Falconsで、ずっと劣勢だったPatriots が第4クォーターで同点に追いつき、史上初の延長戦へ。そして、その勢いのまま延長戦を制するという劇的なエンディングでした。 そして、Super Bowlというと注目されるのがハーフタイムのショー。今年のパフォーマーはLady Gagaでした。
歌もダンスも衣装チェンジもメイキャップも、宙吊りのアクロバットを含む壮観なショーの演出も、何から何まで格好良すぎ! スタジアムがコンサート会場に一変して、会場もテレビ前も興奮の13分間でした。 さて、これに先立つ1月27日、トランプ大統領は突然中東と北アフリカのイスラム圏7カ国からの訪問者を入国制限する大統領令を発布・施行しました。これによって、ニューヨーク、ロサンゼルス、ワシントンなどの都市の国際空港やホワイトハウス前は、大統領令に反対するグループのデモが起こり、一時大混乱となりました。 そして、これまで大事な場面で臆することなく自分の意見を発言してきたLady Gagaのことなので、この場で政治的発言がでるかもと憶測されましたが、直接的な発言はありませんでした。ですが、彼女のショーのオープングの1分間に隠れたメッセージが含まれていたんです。 スタジアムの屋上に現れたLady GaGaは、まず"God Bless America" を歌い始めます。これはアメリカの「第二の国歌」とも言われていて愛国心を歌ったもので、ロシア生まれでアメリカに移民してきたアーヴィング・バーリンが作詞・作曲したものです。 ♪ God bless America, land that I love Stand beside her and guide her Through the night with the light from above ♪
ここまで歌って、自然なトランジションで、"This Land is Your Land"を歌い始めます。 フォーク・シンガーのウッディー・ガスリー(Woody Guthrie)が作詞した曲で、これまでトランプの移民政策に反対しているグループのデモや集会で歌われてきています。 ♪ This land is your land, this land is my land (間を飛ばして) This land was made for you and me ♪ 「この国はあなたの国、この国は私の国~♪」。 そしてこれだけ歌うと、次に "One Nation under God, indivisible, with liberty and justice for all." と話し出します。 「万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家」という意味です。 このフレーズは、"The Pledge of Allegiance" (忠誠の誓い)の一部で、アメリカの公立学校などでよく目にする生徒が右手を左胸にあてて暗唱しているアレです。アメリカ映画のシーンなどで見たことがある人もいるかと思います。 今回はポリティカルなスピーチはありませんでしたが、このようにアメリカ人が子供のころから聴いてきた歌などで、静かに「愛国心」「1つの国」「平等」「多様性を受け入れること」をアピールしました。これはきっとアメリカ人の心にじわじわと効いてきてとても効果的だったと思います。あっぱれ、Lady Gaga! そして、1分ほどのパフォーマンスを終えると屋上からジャンプして一瞬消えて、熱狂渦巻く会場へ空中から登場。超クールなオープニングでした。